ページのまとめ
  • 輸出産業は、円安によってメリットを受ける
  • 輸入産業は、円安によってデメリットを受ける
  • 投資しようとしている会社が、為替の変動でどのような影響を受けるのかを確認しておく

輸出産業は、円安で受け取れる円が増えることに

最初に述べたとおり、為替相場の動きは株式市場に大きな影響を与えますが、どのような影響になるのかは、主に業種によって異なります。

まず、海外でものを販売している輸出産業では、2つの面から円安がメリットになります。メリットが大きいのは、具体的には、自動車、自動車部品、機械、精密機械、鉄鋼、造船、海運の7業種が代表です。

メリットの1つは、これまでと価格を同じで商品を販売するとしたら、あるいは、すでに販売した商品の代金について、受け取れる日本円が増えることです。たとえば1ドル/90円のときに、米国で2万ドルで日本車を販売しているとします。このとき、1台の販売の売上は日本円で180万円です。1ドル/100円になれば、これが200万円に増える、ということです。メーカーはなにもしなくても、受けとれる金額が増えるのですから、大喜びです。

例)円高・円安(対ドル)のメリット・デメリット
  円安でメリットを
受ける業種
円安でデメリットを
受ける業種
円安でも円高でも
あまり影響を受けない
業界 海外でものを販売している輸出産業 海外からものを輸入し、国内で販売 国内企業や消費者に対して商品やサービスを提供
具体例 自動車
自動車部品
機械
精密機械
鉄鋼
造船
海運
食料品
小売り
紙・パルプ
電気・ガス
旅行
輸入商社

不動産
通信
マスコミ
広告

情報サービス
円安
例)100円→110円
〇 メリットが多い × デメリットが多い あまり影響がない
円高
例)100円→90円
× デメリットが多い 〇 メリットが多い あまり影響がない
円安でのメリット・
デメリットの背景
同じ売上でも、受けとれる円の金額が増える 海外からものを輸入する際の原料、材料の円建て価格が値上がる -
同じものでも、海外でより安く売ることができる 価格の上昇が、国民の消費生活にも影響。国内消費の減退 -

海外において、現地の同業他社との競争力が強まる

もう1つは、同じ自動車、あるいは同じ程度のレベルの商品を、より安く売ることができるという点です。上の自動車と同じレベルの自動車の1万8000ドルで売ったとしても、得られる日本円は180万円で以前と変わりません。つまり、米国内の自動車メーカーに対して価格競争力が強くなるのです。

このように輸出産業にとっては、自国通貨の価値が切り下げになることは、大きなメリットがあります。ただし、これは同じ分野で競争をしている他国の自動車産業にとっては、面白い話ではありません。そのため、意図的な通貨安誘導に対しては、他国から強い政治的な圧力がかかるのが一般的です。

かつて、1980年代の前半までは、日本円はドルに対して240~260円程度と、非常に割安でした。そのため、日本は割安な自動車をアメリカなどに大量に販売することができました。しかし、1985年にアメリカの対日赤字が500億ドルに達したことをきっかけに、アメリカの自動車産業が激怒、激しい日本たたき(ジャパンバッシング)が起こりました。

そして、1985年にG5(先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議)、いわゆる「プラザ合意」がなされ、それ以前は240~260円程度で推移していた円/ドル相場は、翌年には160円、さらに87年には120円まで、わずか2年で、倍も急騰したのです。

最近でも、2013年から進んだ円安に対して、「国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が「競争的な通貨切り下げには反対」とけん制。米自動車大手3社(ビッグ3)は「日本が円安を通じた近隣困窮政策をとろうとしている」とオバマ政権に対応を求めた。」(日本経済新聞2013年1月19日)と、報じられたように、懸念の声があがっています。

輸入業種は打撃。国民の消費生活にも影響

上とは逆に、円高になるとメリットがあり、円安でデメリットを受ける業種もあります。その代表は、食料品、小売り、紙・パルプ、電気・ガス、旅行、輸入商社などです。海外からものを輸入して、それを国内で販売している業種では、原料、材料の円建て価格が値上がりします。それを、販売価格に転嫁できればよいですが、転嫁できなければ自社の利益を減らすことになります。

また、仮に転嫁できたとしたら、最終的には消費者が不利益をこうむります。小売価格の値上げが広がれば、国内消費の減退という形で、これらの企業に更なるデメリットをもたらします。

<円安・円高の影響>
為替の動き 輸出入への影響 メリットを受ける業種
ドル高/円安 輸出価格が下がる 自動車、自動車部品、機械、精密機械、鉄鋼、造船、海運
ドル安/円高 輸入価格が下がる 食料品、小売り、紙・パルプ、電気・ガス、旅行、輸入商社など

外国為替相場の影響を受けにくいドメスティック産業

国内だけで、国内企業や消費者に対して商品やサービスを提供している業種、たとえば不動産、通信や、マスコミ、広告、情報サービスといった業種は、基本的に為替の動向からはあまり影響を受けません。

一般的に、経済ニュースなどの報道では、円高不況、あるいは円安メリットいったことばかりが強調されますが、円安はかならずしも一律に好影響があるわけではありません。ただ、日本の主力産業である自動車をはじめとした輸出産業にとっては、メリットが大きいことは確かです。

なお、たとえば、円安メリットを受ける銘柄を探そう、と考えるのなら、下のようなことを調べましょう。

  • その会社が今期、どれくらいの為替レートを想定しているのか
  • その会社の売上のなかで輸出がどれくらいの比率を占めるのか
  • 1円の円安によってどれくらいの増収効果があるのか

これを自分で調べるのは大変ですが、『会社四季報』などの雑誌では定期的にこれらの数字をまとめて掲載していますので、そういったデータを活用すれば手軽です。

<表1:SBI証券調べ ドル高・円安で上昇しやすい「輸送用機器」銘柄>
銘柄コード 銘柄名 相関係数
7203 トヨタ自動車 0.513
7270 富士重工業 0.513
6902 デンソー 0.51
7259 アイシン精機 0.489
7201 日産自動車 0.485
7267 本田技研工業 0.473
7205 日野自動車 0.47
7269 スズキ 0.465
7282 豊田合成 0.455
6201 豊田自動織機 0.441

【SBI証券調べ。レポート2013/11/29より引用】東証一部「輸送用機器」の時価総額500億円以上の銘柄について、その過去300週の上昇率が、ドル・円相場の過去300週の上昇率との比較で「相関係数」が高い順に表示。上位ほど、円安・ドル高の時に上昇しやすい傾向がある。

<表2:SBI証券調べ ドル高・円安で上昇しやすい「電気機器」銘柄>
銘柄コード 銘柄名 相関係数
7751 キヤノン 0.454
6506 安川電機 0.454
7752 リコー 0.449
7276 小糸製作所 0.446
6501 日立製作所 0.441
6592 マブチモーター 0.429
6967 新光電気工業 0.423
6954 ファナック 0.419
6806 ヒロセ電機 0.418
4902 コニカミノルタ 0.415

【SBI証券調べ。レポート2013/11/29より引用】東証一部「電気機器」の時価総額500億円以上の銘柄について、その過去300週の上昇率が、ドル・円相場の過去300週の上昇率との比較で「相関係数」が高い順にランキング。上位ほど、円安・ドル高の時に上昇しやすい傾向がある。