- 基礎編
- 始める前に株のソボクな疑問を解決!
2014年8月21日
配当金や株式分割が多いのは、よい会社?
- ページのまとめ
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- 配当金は、多ければよいというものではない
- 配当金は、税引き後利益にさらに配当課税がなされるため、非常に税率が高い
- タダで株がもらえる株式分割も、得というわけではない
配当金が高いと嬉しいけれど・・・
期末に株主であれば、3か月くらい後に配当金が送られてきます。配当金が送られてくるといかにも、「不労所得」という感じがしますし、自分が金持ち父さんのような、“お金を働かせている投資家”になったような気分です。実際に現金がもらえるのですから、たくさんもらえるほどうれしくなるのが人情でしょう。
しかし、配当金が多いことは、本当に「得」なのでしょうか? 実際は、必ずしもそうとは言えません。それは、2つの面から考えられます。
まず1つは、そもそも何のために投資をしているのか、という点です。投資家は経営者にお金を預けて、投資家の代わりに事業を経営してもらうというのが、株式投資の基本でした(所有と経営の分離)。
そして事業が成長して会社の価値が上がれば、そこから株価も上がるので、株を転売してキャピタルゲインを得るのです。
つまり、経営の目的は事業と会社を「成長」させることであり、そこから得られる株価の値上がりを目指すことこそ、株式投資の王道です。ただし、事業の拡大を目指すことには、失敗のリスクも少なからずあります。
「金のなる木」はどんな企業か?
ところで、これは企業の段階によっても異なります。たとえば、十分にマーケットを支配するほど成長した巨大企業になり、安定して多額の利益を得ている企業の場合、さらに成長するということが、物理的に難しい場合があります。
そんな企業の場合は、更なる成長を無理に狙うよりも、安定して高い収益を上げ続ける「維持」をめざし、その高い収益から、高い配当金を投資家に還元する、という考え方です。もしこれを長期間続けることができるのであれば、投資家にとってはまさに「金のなる木」です。
マイクロソフトの驚きの株主還元
たとえば、米国の例ですが、マイクロソフト社は、小さなベンチャー企業として出発し、1986年に上場して以来、2002年までは一切配当金を出していませんでした。もちろん、儲けが少なくて配当金を出すお金がなかったわけではなく、その分を研究開発や新事業の展開に使っていたのです。その成果もあって、世界最大のソフトウェア企業となったのは、みなさんご存知の通りです。
しかし、「帝国」ともいわれるほどにまで会社が成長し、今後さらに大きな成長は望めないと思われるようになった2003年からは、配当金や自社株買いなどの株主還元策を出しています。事業の成長により結果として株価を上昇させることが難しいため、配当金や自社株買い(会社が自社の株を買うこと)をした方が、株主に対する還元として効率がいい、という考え方です。
2004年7月からは、配当金と自社株買いをあわせて総額750億ドル(配当金が350億ドル、自社株買いが300億ドル)、日本円にして、約7兆5000億円(1ドル=100円として)という、株主還元計画を実施して、世界に驚きを与えました。
こうなると、株主、特に、昔の株価か低い時期に買っていた株主にとっては、まさに「金のなる木」です(もっとも、今後どうなるかはわかりません)。
つまり、配当というのは、会社が自由に使える現金を、社外に流出させることです。現金を会社や事業を成長させる方向に使えば、株価の値上がりという恩恵を株主にもたらしてくれる可能性ありますが、配当として社外に流出させてしまった現金は、そういう成長の可能性が一切ない、ということです。
二重課税の問題
もう1つは、税制の面です。配当金の原資となるのは、もちろん会社の利益ですが、その利益は「税引き後利益」、つまり、会社の儲けから税金を支払った後に残った利益です。利益が出たら税金を支払うのは当然のことですが、問題は、この税引き後利益から出された配当を投資家が受け取るとき、さらに配当課税が引かれるということです。
利益に対して、企業が税金を支払った、その残りである配当金に今度は投資家が課税されるという「二重課税」となっているので、手取り額がかなり減ってしまうのです。
同じお金を、もし配当金に使わずに、内部の研究開発などに使えば、もちろん税金はかかりません。その意味からも、配当金はもともと不利なところがあるしくみなのです。
株式分割も、それ自体は別に得ではない
なお、配当とは別の話ですが、株式分割というしくみがあります。これは既存の株主に、新たに無償で株を提供するものです。たとえば、1株を2株に分割するのであれば、これまで100株持っていた株主は、新しく「タダ」で100株もらえることになります。
一見、非常にお得なしくみのように思えますが、既存の株主にとっては、損も得もありません。「株価は、その会社の値段なの?」での説明を思い出してください。株価は会社の価値を発行済み株式数で割ったものです。会社全体の価値と、一株の価値は、別のものでした。
株式分割では、単に書類上株数を増やすだけですので、会社の価値は何の変化もありません。割られる数字である会社の価値が同じままで、割る数字である発行済み株式数が倍になれば、単純に考えると株価は半分になります。結局、既存の投資家とっては、損も得もない、というのが、この株式分割の基本です。
ただし、株式分割が株価に好影響を与えることもある
もし一株あたり配当金が同じままであれば、受け取れる配当金は2倍になります。ただしそれが良いことかどうかは、上の説明で書いた通り、ケースバイケースで一概には言えません。
投資家にとっては直接的には、得も損もない株式分割ですが、企業がこれを行うのは、高すぎる株価を下げるための場合が多いのです。株価を下げることにより、多くの個人投資家に買ってもらいやすくするという狙いがあります。
そして、株価を見ると、株式分割を発表後に好影響があることもあります。たとえば、1単元が100万円以上もするような高い株の場合、個人投資家は簡単には買えません。ところが、株式分割によって株価が下がれば、個人でも買いやすくなり、人気がでるかもしれない、という連想が働くためです。